製薬業界各社では、コロナ禍による組織体制の変更等の理由により、MRの早期退職の募集が行われています。一方で、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、医療機関への訪問自粛がされた影響により、インサイドセールスが注目を浴びています。製薬会社はインサイドセールス部門を立ち上げて、新たな営業手法を推進しなければなりません。この記事では、製薬業界におけるインサイドセールスに関して解説します。
目次
製薬業界におけるMRの現状
MRはピーク時から約1万2,000人減少
公益財団法人MR認定センターが公表した「MR白書(2021年版)」によると、2020年度の国内のMR数は5万3,586人で、前年度から3,572人減少しました。MR数の減少は7年連続で、ピーク時の2013年度の6万5,752人と比較すると、1万2,166人減少しています。
MR数の減少の理由は主に4つです。
1. 薬価引き下げや後発医薬品の普及による収益環境の悪化
2. スペシャリティ領域の製品の営業に関しては、医師との関係構築型の営業手法が通用しない 3. 新型コロナウイルス感染拡大防止による医療機関への訪問自粛要請 4. 医療情報を提供する方法がオフラインからオンラインへ切り替わった |
同社の調査では、199社中115社はMRの新卒採用が行われていないことも述べています。このような背景から、MRの活動の幅が狭まっていることが分かります。
(参考:AnswersNews「MR減少に拍車…20年度 過去最大の3572人減」)
MRの早期退職を募る製薬会社が続出
各製薬会社で、MRの早期退職者を募集する動きが出ています。その理由は、MRの人員が社内で負担になり始めているためです。MRは高収入の職種で、大手製薬会社であれば40歳で年収1,000万円を超えています。
しかし、医療情報を提供する方法がオンラインに切り替わり、医師自身が情報収集するようになったことから、役割が減ってきているのです。このような理由により、MRの早期退職を募る製薬会社が続出しています。
アステラス製薬 | 2021年に約650人の早期退職者を募集 |
武田薬品工業 | 3年連続で希望退職者を募集 |
アストラゼネカ | 45歳以上の約400人のMRを対象に早期退職者を募集 |
(参考:DIAMONDonline「アステラス製薬「早期退職650人は想定以上」、それでも退職者再募集の怪に業界ざわつく」)
[最新版]製薬業界の営業活動の流れ
近年、製薬業界の営業活動において、コロナ禍による環境の変化と効率化推進の流れにより、プロセスの分業化が進んでいます。営業プロセスを分業化すると、どのような営業活動の流れになるのでしょうか?ここでは、製薬業界の営業活動の流れをご紹介します。
マーケティング
マーケティング部門は、見込み顧客の獲得を目指します。
さまざまなマーケティング施策で、自社商品やサービスへ興味を惹きつけ、自社の利益につながる見込み顧客を集める役割を担います。見込み顧客を獲得するためのマーケティング施策は次の通りです。
SEO対策 | オウンドメディアでターゲットが興味・関心を持つコンテンツを公開する |
リスティング広告 | ターゲットが検索したキーワードに連動する形の広告を掲載する |
SNS運用 | SNS運用をして顧客と接点を持つ |
テレマーケティング | リストに沿って電話をかける |
ダイレクトメール | FAXや郵送でサービスの資料を送付する |
メールマーケティング | メールを活用したマーケティング施策全般 |
外部メディアの活用 | 外部メディアに広告を掲載してもらう |
外部イベントの参加 | 他社が開催するイベントに参加する |
セミナーの開催 | 自社セミナーを開催する |
インサイドセールス
インサイドセールス部門は、マーケティング部門が獲得した見込み顧客の購買意欲を高めて、商談機会を得る役割を担います。
見込み顧客の中でも、自社商品やサービスへの興味・関心の度合いには差があります。見込み顧客数が多い場合は、興味・関心の度合いが高い人に絞り込んでアプローチを行い、商談機会が得られるように仕向けるのです。
しかし、インサイドセールス部門の目標を「商談機会の創出」にすると、受注確度の低い顧客を営業部門にパスしてしまう恐れがあります。そのため、商談機会の創出の定義を社内で確立させておきましょう。
営業
営業部門は、顧客と商談して契約を獲得する役割を担います。一方的に自社商品やサービスを説明するのではなく、相手の要望や悩みをヒアリングした上で、最善の方法を提案しクロージングをかけます。医師自身がオンライン上で情報収集できる今、営業部門に求められるスキルは、オンライン上での提案力です。
カスタマーサクセス
カスタマーサクセス部門は、既存顧客のサポートやアップセル及びクロスセルを促す役割を担います。
既存顧客の医師に寄り添い、継続取引してもらえるようにサポートしていきます。お客様満足度や取引継続率、アップセル及びクロスセルの金額など目標に設定されることが多いです。
営業プロセスの分業化を支えるインフラを整備しよう
営業プロセスの分業化を実現するためには、各部門で情報共有を行う必要があります。顧客情報や営業状況を可視化できるようにデジタルツールを導入しましょう。製薬業界で活用したいデジタルツールには以下のようなものがあります。
MiiTel | 各担当者の営業手法を可視化できるAI搭載型IP電話 |
Shaperon | 医師への情報提供を効率化するメッセージプラットフォーム |
Salesforce | 柔軟なカスタマイズができる顧客管理システム |
(参考:StarConnnectConsulting「製薬・ヘルスケア領域における次世代営業・マーケティングモデル構築に向けて」)
製薬業界でインサイドセールスの役割
製薬業界でも、営業プロセスの分業化が加速していると説明しましたが、インサイドセールスの役割について詳しく把握しておきましょう。
面談機会の創出
インサイドセールス部門は、医師との面談機会を創出していきます。
従来は訪問営業が主流でしたが、新型コロナウイルス感染拡大の環境下において、医療機関への訪問自粛が要請されました。従来の営業スタイルが機能しづらくなったため、営業手法をインサイドセールスに切り替える必要が出てきているのです。
インサイドセールス部門は、医師のオンライン行動履歴を元にして、見込み顧客が高そうな医師にWeb面談を依頼して、商談の機会の創出を目指していきます。
有望医師との関係構築
インサイドセールス部門は、有望医師との関係構築や情報管理も行います。見込み顧客の見込み度合いについては、リードスコアリングで測定していきます。
■リードスコアリング
属性スコア | 病院規模や役職などの属性情報 |
行動スコア | Webサイトのアクセス、コンテンツのダウンロードなどの行動情報 |
キーアクションスコア | 製品採用・処方につながる重要なアクション |
リードスコアリングで点数を計算して、基準値を超えたら営業部門に顧客をパスします。
(参考:StarConnnectConsulting「製薬・ヘルスケア領域における次世代営業・マーケティングモデル構築に向けて」)
製薬業界でインサイドセールスを行う方法
製薬業界でインサイドセールスを行う方法は以下の通りです。
- 顧客情報を一元管理する
- 見込み顧客の優先順位を付ける
- 見込み顧客と良好な関係を構築する
- 見込み顧客をスコアリングする
- 営業担当者へ引き継ぐ
ここでは、各手順について具体的に説明していきます。
顧客情報を一元管理する
マーケティング部門から見込み顧客をパスしてもらったら、顧客情報を一元管理しましょう。
その理由は、マーケティング部門は、各マーケティング施策で見込み顧客の情報を取得しているからです。ホームページから反響があった見込み顧客と、セミナーで名刺交換した見込み顧客の入手情報は異なるはずです。
このような見込み顧客の情報をバラバラに管理していると、営業業務が非効率化します。そのため、顧客情報を一元管理するようにしましょう。
見込み顧客の優先順位を付ける
見込み顧客の情報を一元管理できたら、顧客情報を分類して優先順位を付けていきます。その理由は、見込み顧客の中でも購買意欲に差があるためです。商談機会の創出までのフォロー時間や回数、商談設定までの期間が異なります。
より多くの商談を創出するためにも、優先順位を付けて営業することが大切です。
見込み顧客と良好な関係を構築する
マーケティング部門が獲得した見込み顧客の中には、見込み度が低い顧客もいます。このような見込み顧客と良好な関係を構築していきましょう。見込み顧客と良好な関係を構築していけば、医師が必要に応じて相談してくれることがあるからです。
良好な関係を構築する方法としては、メールで有益な情報を提供したり、Web講演会の案内を行ったりなどの方法があります。
見込み顧客をスコアリングする
見込み顧客の育成状況は、スコアリングして判断します。スコアリングを基準にすると、受注確度が低い顧客を営業にパスする頻度を減らすことができるからです。例えば、以下のように点数付けを行います。
営業担当者へ引き継ぐ
スコアリングの点数が基準を超えた見込み顧客は、営業担当者へ引き継ぎます。
しかし、営業担当者へ見込み顧客をパスしたら終わりではありません。見込度合いに問題なかったか、定期的に営業担当者からフィードバッグを受け取るようにしましょう。そして、受注確度が高い見込み顧客をパスできるように業務改善していくことが大切です。
(参考:SAIRU「インサイドセールスとは?成果に繋げる113のチェックポイント」)
[製薬業界]インサイドセールスで成果が見込めた成功事例
海外の製薬業界では、すでにインサイドセールスへの切り替えは行われており、アストラゼネカは、2013年に300人のフィールドセールス担当をインサイドセールスへ配置転換しました。ハーバードビジネスレビューにおいては、インサイドセールスは、フィールドセールスに比べてコストが40〜90%削減され、収益は維持されるか、さらには成長する可能性があると説いています。
日本においても、コロナ禍をきっかけに、大手製薬会社はインサイドセールスを積極的に活用することになりました。某大手企業においては、インサイドセールス導入前に関して、新規獲得が月間20件でしたが、インサイドセールス導入後には、月間100件まで伸ばすことができました。同社は、主軸商品の売上が低下しており、V字回復させたいという悩みを抱えていました。インサイドセールスのノウハウが社内になかったため、外部リソースを活用してトライアルを実施して成功しました。デジタルツールを活用して、どのようなトークであれば商談機会を創出できるのかを分析して、トークスクリプトを固めることで安定的に新規契約が見込めるようになり、新規の契約獲得数が5倍にアップできました。
(参考:ProSharing「【イベントレポート】成功するインサイドセールス ーISのプロが語る、事業成長に繋がるインサイドセールス部隊の創り方とは?」)
(参考:https://hbr.org/2013/07/the-growing-power-of-inside-sa)
まとめ
製薬業界では、MR人材の早期退職募集が始まっています。大手製薬会社が数百名のMR人材の早期退職を募集したことも話題となりました。また、インサイドセールスの導入で成果を上げてきている国内事例も増えてきています。今回は、製薬業界で始まっている営業プロセスの分業化について解説いたしました。これを参考にして、インサイドセールスの導入を進めてみてください。