SaaS業界で営業プロセスの分業化が加速!メリット・デメリットを解説

SaaS業界では、営業プロセスの分業化が加速しています。SaaSとは、Software as a Serviceの略になりますが、多くは、サブスクリプションモデル(継続課金モデル)のクラウド型ソフトウェアになります。ユーザーにとって、サブスクリプション型サービスは、必要なサービスを必要な期間だけ利用できるため、コストに無駄がなく手軽に始められるメリットがあり、年々広がってきています。一方で、BtoBビジネスであるため、導入までに営業の工数がかかります。1人の営業担当者が営業プロセスの全てを行うことは非常に非効率です。この記事では、SaaS企業が営業プロセスを分業化するメリット・デメリットについて解説しつつ、検討する際のポイントについて述べたいと思います。

 

[SaaS業界]営業プロセスの分業化とは

まずは、営業プロセスの分業化について解説します。

営業プロセスの分業化が求められる背景

SaaSサービスは、ライセンス数や期間に応じて料金が変わります。お客様側は、必要なライセンス数と期間が選べてコストを最小限に抑えられるメリットがあるため、SaaSサービスの利用者は増えてきています。

しかし、SaaSサービスは利用しやすい反面、他製品に切り替えやすいというデメリットもあります。そのため、解約させないようにフォローする必要があります。

新規開拓や商品・サービスの提案、商談、契約、オンボーディング、アップセルを1人で担当すると業務が非効率になります。

営業プロセスを分業化する方法

SaaSサービスは低価格で導入ができる反面、フォローしなければすぐに解約ができてしまいます。「商品説明」「商談」「契約」「オンボーディング」「アップセル」を1人の担当者が行っていたら大変です。営業プロセスを分業化することで効率的な営業を実現することができます。

■営業プロセスの分業化

※マーケティング部門 広告出稿やメルマガ配信の施策で見込み顧客を獲得する
インサイドセールス部門 見込み顧客と良好な関係を築いて商談化させる
営業部門 商談化した顧客に商品説明・提案・クロージングして契約を獲得する
カスタマーサクセス部門 導入後もサポートをして継続利用を促しつつ、アップセルを行う

※マーケティング部門は営業部門ではないものの、営業プロセスを分業化した際に、リード獲得という観点で重要な役割を果たします。『THE MODEL』においては、営業プロセスの1つとして扱われています。

[SaaS業界]営業プロセスを分業化するメリット

SaaS企業で営業プロセスの分業化が加速していると説明しましたが、具体的にどのような効果が見込まれるのでしょうか?ここでは、営業プロセスを分業化するメリットをご紹介します。

業務効率化ができる

営業プロセスを分業化することで、業務効率化が実現できます。優秀な営業担当者は、お客様の場所に出向き商談をすべきです。

しかし、全ての業務を1人で行うと商談に集中できません。例えば、担当のお客様から解約したい旨の連絡が突然入ったら、業務が中断されます。このような非効率な営業業務は改善しなければいけません。

この問題は「マーケティング部門」「インサイドセールス部門」「営業部門」「カスタマーサクセス部門」と、各部門で営業プロセスを分業化することで解決できます。

コスト削減ができる

営業プロセスの分業化は、環境整備や教育コストが高く付く印象がありますが、逆にコスト削減ができます。

営業プロセスを分業化することで、適材適所に人材を配置できます。各担当者が得意分野に時間を費やすことができるようになり、費用対効果が上げられるのです。

また、全てを1人の担当者が行うと営業手法がブラックボックス化しやすくなりますが、このような問題も解決できます。他部門と連携するために、顧客情報や対応履歴だけでなく通話内容や商談内容を記録しておけば、営業手法をナレッジとして蓄積していけるからです。ナレッジを蓄積しておけば、自己学習を促せて教育コストが抑えられます。

営業の属人化の防止ができる

営業プロセスを分業化するためには、他部門連携が必要です。そのため、CRMやSFAなどのデジタルツールに、顧客情報や対応履歴を記録しておく必要があります。近頃は、お客様との通話記録や商談内容をデータとして残す企業が増え始めました。

これまで営業業務は属人化しやすく、成果が出せる担当者と成果が出せない担当者が二極化しやすい傾向がありました。しかし、営業業務の領域を狭め、各担当者の営業手法を可視化して共有することで、組織全体の営業力が均一化できます。

精緻なKPIを設定できる

組織全体のKPIと各部門のKPIを設定しておくと、目標達成するための改善点を明確にできます。詳しくは後述しますが、The Modelの概念を使用してKPI設定すれば、目標を達成するまでにどの程度の結果を出せば良いかが一目で分かるようになります。この数値を参考に、「どこの部門の改善を最優先で行うべきか?」「売上が伸ばせない原因はどこにあるのか?」をマネジメントが見直しやすくなります。

 (参考資料:スマタイ「営業プロセスを分業した方が良い理由とは?」)

 [SaaS業界]営業プロセスを分業化するデメリット

営業プロセスを分業化すると業務効率化ができ売上拡大が狙えますが、1つだけ注意しなければいけないことがあります。それは、各部門に設定したKPIを追いかけ過ぎないことです。

それぞれの部門が設定されたKPI達成を目指そうとすると、「マーケティング部門からパスされたリードの質が悪い」とインサイドセールス部門から声が上がります。また「インサイドセールスが商談化してくれたけれど、見込み度が低すぎる」と営業部門から声が上がるかもしれません。

このような問題は、各部門の目標達成に囚われ過ぎてしまい、他部門に気を配れないことで起きます。そのため、営業プロセスを分業化する場合は、組織全体のKPI達成を優先させるようにしましょう。

(参考資料:セールス強化「営業組織の分業化の功罪とは?解決につながるKPI設計」)

 

[SaaS業界]営業プロセスを分業化するコツ

営業プロセスのメリット・デメリットについて理解して頂けたと思います。SaaS企業が営業プロセスを分業化して、売上拡大を狙うには、どうすれば良いのでしょうか?ここでは、営業プロセスを分業化するコツをご紹介します。

 組織全体で情報を共有する

他部門連携を実現するためには、情報共有が欠かせません。顧客情報や対応履歴など情報が蓄積されているほど「どのようなお客様なのか?」が明確になり、次のアプローチ方法が分かるようになります。そのため、顧客管理システムや営業支援ツールに顧客情報を蓄積して情報共有をしていきましょう。

また、通話内容や商談内容を記録する企業も増えています。このような情報を共有しておくと、お客様がどのような人かも具体的に伝えることができます。

部門間連携の仕組み・ルールを作る

営業プロセスの分業化を成功させるためには、部門間の連携が欠かせません。そのため、仕組み・ルールを作成しておきましょう。仕組み作りで大切にしたいのは、他部門にトスアップする場合の基準を明確に定めておくことです。 

  • マーケティング部門とインサイドセールス部門:どのようなリードをトスアップするか
  • インサイドセールス部門と営業部門:どのような商談をトスアップするか 

上記の基準を明確にしておくことで、部門間連携がスムーズにいきます。また、営業プロセスの分業化に取り組む上でフィードバックしあう場を定期的に設けて、連携方法のルールを改善していくことが大切です。 

組織全体・各部門の目標を定める

営業プロセスの分業化を成功させるためには、組織全体と各部門のKPIを策定する必要があります。各部門のKPIは組織全体のKPIと連動するように設定しておけば、PDCAを見直す際にも役立ちます。そのため、『THE MODEL』の概念を参考にしてKPIを策定してみてください。

■『THE MODEL』の概念

マーケティング部門 来訪者数×獲得率=見込客数
インサイドセールス部門 見込客数×案件化率=案件数
営業部門 案件数×受注率=受注数
カスタマーサクセス部門 受注数×更新率=継続数

 

営業プロセスの分業化の魅力を伝えておく

各部門が目標達成をするために、異なる業務を異なる場所で行うと仲間意識が薄れてしまうことがあります。営業プロセスを分業化するに当たり、各部門の分断はある程度は仕方ありません。

しかし、各部門が分断しても、組織全体で同じ方向を見る必要があります。そのため、従業員には営業プロセスを分業化する魅力について理解してもらいましょう。また、組織全体のビジョン・ミッション・バリューを定義しておくと組織全体の団結力が上げられます。

(参考資料:Power Interactive Corp「【図解】営業の分業制度『THE MODEL』の内容を5分で簡単解説」)

 

[SaaS業界]営業プロセスの分業化の成功事例

最後に営業プロセスを分業化して、業務効率化や生産性向上に成功しているSaaS企業をご紹介します。

組織全体でデータ共有を徹底して事業拡大に成功

Sansan株式会社は営業効率化を実現するために、営業プロセスを分業化しています。部門連携を強化するために、顧客情報や対応履歴をはじめ、お客様に提供した資料などもシステム上に蓄積しています。

また、通話内容や商談内容を録音したデータも保存しておくことで、文字では伝わらないお客様の特徴・性格まで共有しています。このような徹底した情報共有を行い、お客様に適切なアプローチをすることで売上を伸ばしています。

(参考資料:MiiTel導入事例「Sansan株式会社:60名のインサイドセールスでSansan事業を支える 200超アカウントのMiiTelの使い倒し方」)

コロナ禍でもインサイドセールス導入で顧客数85%アップ

HubSpot Japan株式会社は、お客様の消費行動の変化に早期に気づき、見込み顧客の育成に注力するためにインサイドセールスを導入しました。お客様は商品購入前にインターネットを活用して情報収集を行っています。そのため、有力な情報を最適なタイミングでお客様に届けることで、お客様から支持を集めているのです。

このように見込み顧客との関係構築に取り組むことによって、コロナ禍でも顧客数85%アップと売上を順調に伸ばしています。

(参考資料:MarkeZine「コロナ禍でも顧客数85%増 HubSpotのトップセールスが体現する顧客が求めるインサイドセールス」)

従業員教育を効率化させて生産性アップ

バックオフィス業務支援のクラウドサービスを提供する株式会社Donutsでは、営業プロセス分業化と人材育成の強化で大きな成果を出しています。同社はオンライン商談を採用しており、それぞれの商談内容を録画しています。

新人メンバーには、オンライン商談に同席をしてもらったり、録画した商談を見てもらうことで、どのように営業すれば良いかを教えています。このような教育を実施し、入社4ヵ月目の新人が歴代の営業と同等の受注件数を獲得できるなどの成果を出しています。

(参考資料:SaaSサーチ「【成功事例】インサードセールス導入事例|成功の秘訣とは?」)

まとめ

SaaSサービスは利便性が高いため、多くのお客様を囲い込めます。その一方で、他製品の乗り換えなども起きやすいサービスです。そのため、製品導入後のフォローなどを行って継続率を上げていく必要があります。

新規顧客の獲得、顧客との関係性の構築、商談、導入支援、解約手続きを全て1人で行うのは大変です。これらを分業化して営業業務を効率化していくことで、売上アップが狙えます。そのため、ぜひ、これを機会に営業プロセスの分業化を検討してみてください。