新型コロナウイルス(COVID-19)の流行により、急遽、勤務形態をリモートワークに切り替えざるを得なくなった企業が続出しました。
IT化が進む現代では、仕事にデバイスが欠かせず、1人の従業員が複数台のデバイスを使用することも珍しくありません。PCはもちろん、スマートフォン、場合によってはタブレットが必要なこともあるでしょう。
しかし、いずれの端末も安い金額ではないため、企業側からするとデバイス支給のコストが悩ましい問題となっているのではないでしょうか。そこで注目したいのが、BYODです。
BYOD(Bring your own device)とは、従業員が個人保有の携帯用機器を職場に持ち込み、それを業務に使用することです。
海外では、従業員にデバイスを支給する費用を下げる手法として注目されています。本記事では、デバイス支給の費用を下げる手段としてのBYODについて説明したいと思います。
BYODのメリット
BYODにすることで、以下のメリットが期待できます。
(1)デバイス支給コストの削減
各自が自分の持っているデバイスを使用するため、会社で新たにデバイスを購入して配布する必要がありません。よって、デバイス支給コストが削減できます。
(2)業務効率化
自分のデバイスを使用することにより、使い慣れた(操作方法がよくわかっている)機器での作業を行うことができます。使用方法が分からず手間取るリスクが少なく、作業効率が上がります。
(3)シャドーITを抑止できる
シャドーITとは、BYODが正式に決定していない状態で、会社の認可なく個人所有のデバイスを仕事に使うことを指します。
シャドーITで特に問題になるのは、スマートフォンの紛失による情報漏洩です。マカフィーとPonemon Institute社の調査によると、調査対象439社において、1年間に142,706台のスマートフォンが紛失していることがわかりました。
紛失したスマートフォンから顧客情報や機密情報が漏れ、悪用される恐れがあります。BYODを正式に決定することで、セキュリティをしっかり整備すれば、万が一紛失があった場合でも防げます。
(参考:https://www.ntt-tx.co.jp/column/feature_blog/20161116/)
(参考:https://www.pfu.fujitsu.com/inetsec/products/blog/blog20001.html)
BYODのデメリット
BYODはデバイス支給コストの削減につながり、従業員も使い慣れた端末なので操作しやすく、業務効率化が期待できます。また、デバイスがいつも手元にあるため、リモートワークがしやすいのもメリットです。しかしその一方、さまざまな問題をはらんでいます。
(1)通信費用の問題
私物を業務でも使う場合、業務で使用した分の通信費用を経費として会社に請求することになります。
しかし、業務分の通信料金だけを抜き出して算出するのは困難です。これは仕事用のデバイスとプライベートのデバイスを分けて使っていた時には起こらない問題ですが、社員側には「通信量の負担はどうなるのだろう」という不安があります。金銭が絡むデリケートな問題なので、事前に通信費用の負担についてはっきりさせておかなくてはいけません。
(2)仕事とプライベートが曖昧になる問題
BYODで個人のデバイスを仕事に使用することで、仕事とプライベートの線引きが難しくなるという問題があります。仕事にも使えるデバイスを常に持ち歩くことで、休日や深夜にも仕事の連絡が来ても仕事に引き戻されてしまうため、オンオフの区別が付かず無限に残業をしているような状態になってしまう恐れがあります。
反対に個人用のデバイスを常に使うことなるため、業務時間中にスマートフォンでプライベートのSNS利用やWeb閲覧、ゲームなどをしてしまうかもしれないという危うさもあります。
(参考:McAfee Blog「スマートフォンの紛失率、年間で約5%」)
海外でのBYOD
海外では従業員が使い慣れた機器で仕事ができ、企業にとってもデバイス支給費がかからないというメリットから、BYODを積極的に採用するケースが多く、BYODでコスト削減に成功しています。
米Cisco社の調査によれば、2012年時点で世界8カ国・従業員1,000人以上の大企業と500人以上の中小企業のうち、89%が何らかのかたちでBYODを実践していることがわかっています。
また、2012年に発表された米国Aberdeen Groupの調査では、VMwareやIntelはBYODによりコスト削減に成功したと発表しています。また、SAP社もBYODを進めており、CIOは「世界的にも成功したBYOD事例だ」とコメントをしている。
(参考: Cisco IBSG Horizons”BYOD: A Global Perspective)
(参考:「世界的にも成功したBYOD事例」と胸を張るSAPのCIO、その裏側を語る)
日本でのBYOD
反面、日本ではセキュリティの問題や費用の切り分けや精算手続きの手間等からBYODは殆ど普及していませんでした。
ところが、新型コロナウイルス(COVID-19)の流行により、急遽、勤務形態をリモートワークに切り替えざるを得なくなった企業が続出しました。
業務に必要なパソコンやタブレット、Web会議などに必要なWebカメラやマイク、ヘッドセットなどの需給は逼迫しており、入手が難しい状況になっていました。結果的に従業員の自宅で使用しているデバイスをそのまま在宅勤務でも利用してもらうBYODが促進されました。
BYODを導入することで、一部企業においては、セキュリティの問題や費用の切り分けや精算手続きの手間等をクリアしたうえで、コスト削減と生産性向上を図ることに成功しています。その理由として、BYODを安全にかつ、簡単に実現するサービスが登場していることが挙げられます。
楽天コミュニケーションズの「モバイルチョイス・アップゲート」というサービスでは、業務に必要な機能を1つのアプリにまとめ、アプリ内でOffice 365やSalesforce.com、Box、Sansanといったビジネスアプリケーションやメール、チャットが使えるシステムです。
さらにセキュアブラウザも備えているため、Webアプリの使用も可能。このシステムは、データはアプリを通してクラウド上で保管・管理されるため、端末には一切データが残りません。一定時間アプリを操作しなかった場合や、アプリを綴じれば自動的にキャッシュが削除されるので、デバイスが盗難されたり紛失したりしても情報漏洩の心配がないのです。
さらに、専用アプリを使って通信したパケットの通信量を測定するパケット測定機能もあるため、私物のデバイスでも仕事に使ったパケットとプライベートで使ったパケットを可視化することができます。企業側も「誰が」「どのくらい」通信しているかを把握できるため、適切な通信費を経費として支払うことができる仕組みです。
(参考:キーマンズネット「緊急事態宣言期間中のテレワークの実施状況と勤務実態に関するアンケート」)
(参考:「仕事のせいで私のギガが減る!」 そんな社員の不満を解決するサービスとは?)
(参考:https://moconavi.jp/casestudy/detail/)
まとめ
BYODは海外では、以前からコスト削減手段として有効に活用されてきたが、日本では、コロナ下でのリモートワーク化が推進されてきていることや、BYODを始められやすくなるようなサービスが登場してきており、BYODは「デバイス支給費削減」できる有効な手法として徐々に広がってきています。
本記事を参考にBYODの導入を検討していただければと思います。