Vol.3 営業の本質とは?個人,組織の営業力を上げるためには?
営業力を劇的に上げる質問力
前回、視座・視野・視点を変えることについてお話しましたが、今回は「具体的にどうやって質問をすれば良いか」についてお話します。
これまで、SPIN(後述)などのHow to論も多く提唱されてきましたが、その大半が大口商談に適したHow to論ばかりで、小口商談にも適しているものが無いのも事実です。
そこで今回は、大口/小口に関係なく通用する質問力を身に付けるためのマインドセットとスキルセットをご紹介します。
筆者が、学生時代に経験したポスター販売から、社会人時代に総合商社で経験した数十億円規模の案件クロージングまで、実際に実践して結果を残してきた質問法ですので、どんな商材/業界でも活用できると思います。是非、皆さんも実践してみて下さい!
質問の目的を意識する
まず、なぜ質問する必要があるのか、その目的を明確に意識することから始めましょう。 質問する一番の目的は、 「相手を良く知ること」 ではなく、 「課題(顧客のニーズ)を顧客自身に自覚して貰うこと」です。 従って、どうしたら上手く質問できるか=どうしたら課題を顧客自身に自覚して貰うことが出来るか、を考える事なのです。 そして、大前提として皆さんが営業活動をする時に認識しなければいけないのは、相手は自分のことを“警戒“しているということです。 視座を変えれば容易に想像できると思いますが、例えば営業電話を受けた時、ほとんどの人が「余計なものを売りつけられたくない」と身構えます。 これは、行動経済学/消費者心理学的な防衛本能が働くからです。一方、人間は本能的に他者に厳しく自己に甘い生き物なので、他者には防衛本能を働かせますが、自分の言動に対しては自己正当化する傾向にあります。 従って、売込み営業から「弊社は▲▲というサービスを提供しています。御社は○○という課題をお持ちかと思いますので、御社のお力になれるかと思います!」と言われても、顧客は「そんなことは無い。まぁ、あったとしても小さな問題だ。」と突き返してしまいます。 一方で、「弊社は ~中略~ 提供しています。もしかしたら、御社にも貢献できるかと思ったのですが、まずは御社の課題についてお伺いしたいと思います。たとえば同業他社様の例で申し上げると、××、○○、□□といった様な課題が生じていますが、御社の場合どのような課題をお持ちか簡単に教えて戴けませんか?」と聞くと、多くの方は「ウチは相当IT投資してるので××とか、□□は無いねー。まぁ、ただ○○はあるかもしれませんねー。」というような答え方をしてくれます。なぜならば、こちらが顧客に対して“寄り添う姿勢”を見せているからです。 ちなみに、上記の例では、ほぼ間違いなくアポは取れます。なぜならば「○○という悩みがある」と顧客みずから言っているから(顧客自身に課題を自覚して貰ったから)です。 既述の通り人間は自己正当化するので、この顧客の考え/意見は変わることは無く、さらに質問の仕方次第では悩み・課題の存在が顧客の中で大きくなっていきます。 もう少し具体的に、マインドセット/スキルセット両面で、どうしたら良い質問が出来るか=顧客自身に課題を自覚して貰えるかについてご説明します。マインドセット
- まずは、心構えとして、「【営業力を上げる】営業の本質とは?営業力を上げるためには? ~Input力 と Output力~」でもお話した通り、「どのように売るか」ではなく、「どうしたら、顧客の利益を最大化し、費用を最小化できるのか」ということを念頭に置いてください。
- そして、「顧客の利益を最大化し、費用を最小化」するためには、顧客の課題(ニーズ)を詳細に把握し、その課題を顧客自身に自覚して貰わなければなりません。従って、顧客と電話等で話す目的は「アポを取る」ためでなく「顧客の課題(ニーズ)を把握し、顧客自身に自覚して貰うこと」なのです。
スキルセット
営業力は8割方マインドセットで決まると聞いた後にあまり読む気がしないかもしれませんが(笑)、続いて、スキルセット(具体的にどのように質問したら良いのか)についてご説明します。- 顧客と電話等で話す目的は、「顧客の課題(ニーズ)を把握し、顧客自身に自覚して貰うこと」と申し上げましたが、そもそも課題(ニーズ)には、①顕在と②潜在の2種類あります。
- 顕在ニーズを確認するのは比較的容易で、以下のステップを踏んで質問すれば、ほぼ間違いなく確認する事が出来ます。 A)自社がどんなサービスを提供しているか端的に述べる B)もしかしたら、顧客が抱えている課題を解決できるかもしれないので課題を教えて欲しいと頼む。 C)例えば、こんな課題があるのではないかと例示する(事前に仮説を立てておく)
- 問題は、潜在ニーズを見つけ出し、それを顧客に認識させるための質問ですが、実はそのプロセスはとてもシンプルで以下2つのステップしかありません。 A)見込み客から潜在ニーズを聞き出す「発見のための質問」 B)潜在ニーズの大きさを顧客自身に認識させるための「発展のための質問」(必ず定量情報を含める)
具体的なケース(対話形式)
前提 (1)商材:電話営業を可視化するクラウド型AIソフトウェア/ソフトフォン (2)営業方式:新規顧客に営業電話 質問の流れ ※対話にカッコ書きで数字/アルファベットを記載していますが、これは先述の1.顕在ニーズ確認ステップA)B)C)、2.潜在ニーズ確認ステップA)B)のどれに対応するか記載したものです。例えば、 2.潜在ニーズを顧客に認識させるB)発展のための質問の場合、(2B)となります。 営業 「~挨拶略~ 弊社は、電話営業を可視化するクラウド型AIソフトウェア/ソフトフォンを提供(1A)しているのですが、もしかしたら、●●拡販のためインサイドセールスに注力している御社のお役にも立てるかと思い、ご連絡させていただきました。まず御社のお役に立てるかだけでも簡単にご確認させていただきたいので、2,3分で御社の課題についてお伺い出来ればと思いますが、今少々お時間よろしいでしょうか(1B)?」 顧客 「直ぐに次の打ち合わせが始まっちゃうんですけど、まぁ2,3分なら。」 営業 「ありがとうございます。では早速ですが、電話営業やインサイドセールスに注力している同業他社様の例で申しますと、担当者が電話口でどんな営業をしているか可視化したいですとか、教育コストや管理工数を削減したいですとか、あるいは電話機等の機器コストや電話代を削減したい、といった課題をお持ちなのですが、御社の場合、電話営業周りでどの様な課題をお持ちか少し教えて戴けますか(1C)?」 顧客 「んー、担当者が電話口でどんな営業しているか視える化できるんだったら、そりゃしたいですけど、そんなこと出来るんですか?」 営業 「はい。弊社は、最新のAI技術を使ってクラウド型のソフトフォンとソフトウェアを開発しております。弊社のサービスで担当者の方が「何を」「どのよう」に話しているか可視化することが出来ます。あとは、セールスフォース等のSFAやCRMと連携したソフトフォンですので、お客さんの名前をクリックするだけで発信したり着信時にお客さん情報をポップアップしたり出来るため、架電工数を削減したり(2A)、インターネット電話ですので通話料金をお安く提供できます。」 顧客 「ほぉ。それは面白いですね。まぁ電話周りで言うと、うちは結構進んでいて、IP電話を入れているんで通話料は既に安いんですよ。あと、まぁ架電工数と言ってもそんな大したことないですしねぇ。営業電話の可視化以外はあんまり興味ないかなぁ。」 営業 「承知いたしました。電話営業の可視化についてご興味をお持ちいただき、ありがとうございます。因みに御社の電話営業担当者は何人いらっしゃって、一日一人当たり平均何回架電なさってますか?(2A)」 顧客 「えー、派遣さんとか含めて10人いて、一人当たりだいたい1日50件ですねー。」 営業 「ありがとうございます。実は、03から始まる10桁の電話番号を確認しながらダイアルするのに皆さん平均9.7秒掛かっています。1日50架電したとすると1日1人当たり485秒になり、これを10人の担当者で年間に積み上げると、なんと合計約40営業日相当になります。掛け間違いも1週間に1度程度はあると伺いますので、実際はもっと工数が割かれていることになります。つまり、御社は1年間に電話のボタンを押す作業だけで約40~50営業日割いているんです。これは結構な工数で、ここを改善するだけでも生産性向上につながるかと思います。(2B)」 顧客 「うーー。。そういわれると、そうだなぁーー。。そんな工数割いているのか。。積み上げて考えたこと無かったけど、それは確かに大きいですね。。」 ここまでくれば、確実にアポは取れます。また、顕在ニーズ/潜在ニーズともに顧客に自覚してもらったので、後は価格情報などをお伝えして、如何に自社サービスが顧客のProfitを上げ、Lossを下げるか(利益を最大化し、費用を最小化できるか)を説明してクロージングをすれば良いだけです。 ※ここまで来てクロージングできない場合は、①価格設定が間違っている(= 価格 > P↑/L↓)か、②クロージングが相当下手か、③顧客側に何かしらの事情が生じたかのいずれかですので、質問力ではどうしようもできません。まとめ
少し長くなりましたが、質問力を上げるために必要なことをまとめると、以下の通りです。 マインドセット:- 「より多く売ってやる」ではなく、「いかにより多くの顧客の利益を最大化し、費用を最小化するか」というマインドに切り替えること。
- 質問する目的は、「顧客を知るため」ではなく、「顧客自身に課題を自覚して貰うため」というマインドに切り替えること。
- 顕在ニーズと潜在ニーズをしっかり分けて認識し、潜在ニーズを探り出すための「発見のための質問」と、ニーズの大きさを顧客に認識させる「発展のための質問(定量情報を含む)」をすること。
次回からは少し視野を広げて、組織の営業力を上げるためにはどうしたら良いかお伝え致します。
一言メモ
本文にも出てきましたが、最近SPIN(スピン)という質問法が注目されています。これは、主に大口商談に適した質問法ですが、営業が顧客の話を聞く際に質問すべき4つの質問の頭文字をとったものです(以下ご参照)。- 状況質問(Situation) →顧客の現状を理解する
- 問題質問(Problem) →顧客が抱える問題を明確にし、顧客自身に問題の存在を気付かせる
- 示唆質問(Implication) →問題の重要性を顧客自身に認識させる
- 解決質問(Need payoff) →問題が解決した理想の状態を、顧客にイメージさせる
- 状況質問(Situation) →【自分が】理解するための質問
- 問題質問(Problem) →【顧客が】気付くための質問
- 示唆質問(Implication) →【顧客が】認識するための質問
- 解決質問(Need payoff) →【顧客が】イメージするための質問