リモート環境で取り入れるべき新人教育方法とは?

新型コロナウイルス(COVID-19)への対応で、リモートワークを導入する企業が増えました。2020年3月には、小池都知事が緊急事態宣言を発表し、不要不急の外出を控えるだけでなく、仕事も自宅で行うことが要請されたことから、リモートワークの対応が迫られています。

リモートワーク環境下においては、(1)業務分担(2)指示・報告(3)勤怠管理(4)人事評価(5)教育などで課題が生じますが、中でも「教育」に課題を持つ企業が多いです。

リモート環境下での教育は、大半の企業が未経験であり、多くの企業がその実施に苦労しています。本記事では、リモート環境下での早期新人教育方法を紹介します。
(参考:東洋経済「リモート実施で見えた「新人研修」の新しい形」)

リモート環境下の新人教育の課題とは?

AIによる人材マッチングシステムを提供するLAPRAS社は、2020年3月26日にフルリモートワーク体制に移行しました。2020年4月に入社した新人の教育もオンライン上で行われましたが、何度も失敗を繰り返し、リモート環境下での新人教育の難しさを痛感したと述べています。実際に、どのような課題が出てきたかを以下紹介します。

コミュニケーション不足に陥る

リモートワークでは、対面で話す機会よりも、文章によるやり取りが増えます。文章だけのやり取りは、表現次第では素っ気なさを感じてしまい、相手の心情が見えません。そのため、単なる質問なのに、責められているかもしれないと誤解を招くことがあります。

また、オンライン上でのやりとりだけでは、距離感が縮まりにくいため、新入社員が質問しづらくなってしまいます。些細なことに関して質問するのは、気が引けてしまうと悩む新入社員も多いです。新入社員の心理的安全が確保されないと、ストレスを与えてしまうので注意しなければいけません。

顔と名前・仕事内容を一致させにくい

リモート環境下では、顔と名前と仕事内容を一致させにくいという問題もあります。特に多くのメンバーを新たに迎え入れる場合などは、顔と名前・仕事内容を一致させるのが難しくてなかなか覚えることができません。

実際に、LAPRAS社では、30名の新入社員情報を覚えるのに2週間を要したとのことです。従業員の顔と名前・仕事内容を覚えないと、新入社員に不安を与えてしまうため注意しなければいけません。

心理的な距離感が埋まりにくい

リモートワークにおいて、直接会ったことがない相手との距離感が分からないと悩むケースは多いことでしょう。同じ部署の人であれば、話す機会はありますが、別部署の人など、業務で関与しない人とは話す機会はありません。心理的な距離感が埋まらないので、些細なことを聞きづらいという問題が生じたとのことです。
(参考:HR TECH LAB「LAPRASの失敗を公開します。リモートオンボーディングの困難と改善について」)

新人教育に欠かせないオンボーディング

新人教育に欠かせないオンボーディングをご存知ですか?オンボーディングは、社員教育に欠かせない手法です。特に外資系企業で一般的に使われており、日本企業でも大手企業を中心に導入が進められてきています。ここでは、オンボーディングについて解説します。

オンボーディングとは?

オンボーディング(on-boarding)を直訳すると「船や飛行機に乗っている」という意味です。飛行機に乗り込んできた顧客に対して、必要なサービスを提供して慣れてもらうことを指しますが、ビジネスにおいては、企業に入社をしてきた従業員を組織の一員として定着させて、戦力化させるまでのプロセスを意味します。

従来は、新卒社員を対象にした研修プログラムのことを指していました。しかし、近年では、新卒社員だけではなく、中堅人材、幹部候補の人材育成なども含めて考えられるようになりました。

(参考:日本最大級の人事ポータルHRpro「オンボーディング」)

有名企業ではオンボーディングを実施

世界中に13万人以上の社員を有するオラクル・コーポレーションでは、クラウド事業を推進するために大量の人材採用を行っています。

日本法人である日本オラクル社だけでも、年間100名規模で社員採用をしています。1年間に100名規模を採用する同社では、”いかに早く会社に慣れてもらい、実力を発揮してもらうか” が課題として挙げられており、その課題を解決するために、「社員エンゲージメント室」が設けられ、社員研修プラグラムの提供など、さまざまな取り組みが行われています。

オンボーディングの手順

オンボーディングの手順の一例として、日本オラクル社の方法を紹介します。日本オラクル社では、1ヵ月間で会社や製品の基礎知識を身に付けさせて、働くメンバーとの信頼関係を構築し、早期に活躍できるプログラム作りがなされています。

[研修プログラムの内容]

1週目 集合研修を実施して、会社や組織のルールなど企業理念・文化・体制を学習します。この集合研修は、社内関係者とつながることを意図した構成。オラクル社の一員だという自覚を与えて、新入社員の自発的な行動を促してく役割を担います。
2週目 業務に必要なOJTを実施します。グローバル標準のテキストを使用したり、eラーニングを活用したりして、オラクル社の営業手法を学びます。
3週目 担当製品に関する知識(機能・価格など)をOJTで学びます。
4週目 再び、集合研修を実施します。2週目・3週目で学習した内容の習熟度を確認します。
5週目 現場に出る前の準備期間です。上司と習得状況を確認し、実践に備えます。

(参考:SELECK「会社の印象は1ヶ月で決まる!?社員エンゲージメント85%に挑む、日本オラクルの挑戦」)

リモートで新人教育(オンボーディング)を実施する方法

リモート環境下で新人教育(オンボーディング)を実施するには、どうすれば良いのでしょうか?ここでは、実際にリモート環境下でオンボーディングを行っている企業例を参考にして、実施方法を解説します。

タッチベースの会話による信頼関係の構築する

リモート環境下の新人教育の課題を抱えていた前掲LAPRAS社は、雑談による信頼関係の構築にフォーカスしました。些細な業務の質問について「誰に相談すれば良いか分からない」という問題を解決するため、社内ドキュメントの各メンバーの自己紹介を更新したり、1on1ミーティングで業務領域の説明を行ったりするなどの対策を講じています。

1on1ミーティングは、オフィス用品通販サービスを運営するアスクル、大手アパレル通信販売会社ZOZOでも実施されています。毎日15分程度のミーティングを実施することで、コミュニケーション不足を解消しているのです。

このようなタッチベースの会話による信頼関係を構築することで、悩みや問題が発生した場合も、相談できる上司や仲間がいると安心感を与えることができます。

(参考:HR TECH LAB「LAPRASの失敗を公開します。リモートオンボーディングの困難と改善について」)
(参考:DIAMOND online「新入社員をフルリモートで一人前に育てるコツ、アスクル・ZOZOテクの実例」)

業務の標準化をしておく

株式総会クラウドを提供しているケップル社では、簡単なマニュアルを作成して配布することから、オンボーディングをスタートさせています。

経費精算方法など「誰に聞けばいいのかわからないけど、いちいち聞くのも申し訳ない」というケースを都度拾ってマニュアルを作成しています。このようなマニュアルを整備していき、業務の標準化を図ることで、新人教育を加速する仕組みづくりが整えられています。

(参考:HR NOTE「5社が実践するオンボーディング、押さえておきたいポイントと事例をご紹介|HR-Study#1」)

部署間横断型のコミュニティを活用する

リノベーション住宅の流通プラットフォーム「cowcamo」を展開するツクルバ社では、中途入社者向けに「バディ制度」を設けています。3ヵ月間、気が合いそうなメンバーとランチに行ってもらい、相談できる関係を構築していくのです。

また、「クオーター同期」という制度もあります。入社時に1人で同期がいない人もいますが、クオーター単位で同期をつくることで交流を促進する効果が得られるのです。このような取り組みは、リモート環境下でも、オンラインランチとして実施できます。

また、アスクルやサイバーエージェントでは、新入社員主体のプロジェクトを実施。1つのプロジェクトを、新入社員で進めていくことで、部署間横断型のコミュニティが構築できます。

(参考:HR NOTE「5社が実践するオンボーディング、押さえておきたいポイントと事例をご紹介|HR-Study#1」)
(参考:DIAMOND online「新入社員をフルリモートで一人前に育てるコツ、アスクル・ZOZOテクの実例」)

感謝を積極的に伝える

ネット宅配クリーニング「リネット」を展開するホワイトプラス社では、入社日に”ウェルカムボックス”を用意しています。ロゴステッカー・パーカー・Tシャツなどを詰め込み、新入社員のデスクの上に置くことで、入社を歓迎する気持ちを伝えています。

リモート環境下では、ウェルカムボックスは難しいかもしれませんが、オンライン上で入社式や歓迎会を実施し、温かい気持ちで仲間として迎え入れるなどの方法はあります。
(参考:HR NOTE「5社が実践するオンボーディング、押さえておきたいポイントと事例をご紹介|HR-Study#1」)

まとめ

今回は、リモート環境下での早期新人教育について紹介しました。オンボーディングは、企業に入社をしてきた従業員を組織の一員として定着させて、戦力化させるまでのプロセスを指しますが、リモート環境下の早期新人教育の方法として最適です。オンボーディングの方法は、各企業で異なりますが、以下の点を意識することが大切です。

・タッチベースの会話による信頼関係の構築
・業務の標準化をしておく
・部署間横断型のコミュニティを活用する
・感謝を積極的に伝える

ぜひ、リモート環境下での新人社員教育に悩まれている方は、本記事を参考にして実施してみてください。