リモートでの人事評価制度と国内外の最新事例

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴い、企業のリモート化が加速してきています。

人事評価クラウドサービスを提供する株式会社あしたのチームが実施した「テレワークと人事評価に関する調査」では、約7割の管理職がテレワークでの人事評価が難しいと回答しています。人事評価が難しい理由として「勤務態度が見えないから(72.6%)」、「生活につながる行動を細かく把握しづらいから(67.1%)」などが挙げられています。

しかし、リモート化に伴い人事評価が難しくなったからといって、適切な人事評価をしなければ、従業員によるモチベーションの低下や退職率の増加につながってしまうため注意しなければいけません。本記事では、Withコロナ時代のリモート化における人事評価制度の課題とそれを克服する実践法について解説します。

(参考:組織づくりベース「人事評価制度に不満を持つ社員にはどう対処する?」)

(参考:株式会社あしたのチーム「テレワークと人事評価に関する調査」)

リモート環境におけるチームの評価方法の課題

前掲「テレワークと人事評価に関する調査」では、約7割の管理職がテレワークでの人事評価が難しいと回答しています。実際に、どのような課題が挙げられるのでしょうか?ここでは、テレワーク時の人事評価の課題を紹介します。

 課題1:勤務態度が見えない

リモートワークでは、お互いの状況が分かりません。オフィス勤務においては、相手の状況が分かりやすく相談がしやすかったものの、テレワーク環境下では、相手の状況がよく分からないために相談しづらいと悩む従業員が増えています。

勤務態度が見えなければ、極端な話、仕事の成果のみで評価をしなければならなくなるでしょう。しかし、極端な成果主義に傾倒することになると、外的要因により成果が出せなかった場合に不公平感を感じさせてしまうことや、自分の成果を上げるために個人主義に走ってしまい社員同士が連携しにくくなるなどの弊害が生じます。そのため、勤務態度が見えないリモートワークの人事評価に難しさを感じる管理職の方が増えてきているようです。

(参考:Recurrent「「見ていないのにどうやって評価するの?」社員の不満に応える“リモートワーク行動基準”による新評価システム運用法」)

 課題2:勤務時間を正確に把握しづらい

リモートワーク導入の課題で、勤怠管理に関連する不安を抱える管理職も増えています。オフィスであれば、打刻用の端末やツールを使用して、勤務時間を記録できます。打刻の記録と実際の勤務時間が異なることもありますが、管理職や同僚などがオフィスにいるため、大きな誤差は防げるでしょう。

しかし、リモートワークは自己申告に頼るしかなく、正確な時間を把握できません。リモートワークでは勤務時間を正確に把握できなくなり、適切な人事評価が行えるか不安視する管理職も少なくありません。

(参考:あしたの人事「リモートワークに必要な勤怠管理ツールとは?人事マネジメントの課題と解決策を解説」)

課題3:評価面談がしにくい

人事評価を構成する主な要素は、組織や事業状況によって異なりますが、主に3つの要素、業績評価・能力評価・情意評価があります。

  • 業績評価…目標指標の達成度合いで評価する
  • 能力評価…仕事に取り組むことで磨かれる職能要件と照合して評価する
  • 情意評価…組織への貢献や周囲への影響力から評価する

しかし、リモートワークでは勤務態度や勤務時間が把握しにくく、意思疎通も図りにくいため、どのように評価すれば良いか頭を悩ます管理職が少なくありません。

(参考:リンクアンドモチベーショングループ「評価面談の目的とは?評価項目や進め方のコツを徹底解説!」)

 withコロナ時代(テレワーク)の人事評価制度の事例

さまざまな企業の管理職が、テレワークの人事評価に頭を悩ませています。その一方で、テレワークの人事評価運用にも成功して、問題なくテレワーク推進できている企業も存在します。

2020年7月に、KDDIは「KDDI版ジョブ型人事制度」を導入すると発表して大きな注目を集めました。このように、テレワークに対応した人事評価を採用している企業の事例を参考にして、withコロナ時代に相応しい人事評価制度の導入を検討していきましょう。

「ジョブ型」人事評価制度

KDDI版ジョブ型人事制度とは、成果に基づく報酬や職務領域を明確化し成果や挑戦、能力の観点から評価する人事制度です。

成果重視型の評価方法のため、評価に応じて昇降給します。グレードが上がれば給与もアップして、出世できる可能性も。このようなジョブ型人事制度を採用して、年功序列からの決別をする企業が増えています。

 リモートワークでは、勤務態度や勤怠管理を管理することができませんが、成果主義のジョブ型を採用することで、結果重視となり管理する必要性がなくなります。そのため、リモートワークの人事評価方法として、ジョブ型人事制度が注目を集めているのです。しかし、ジョブ型人事制度は初導入となるため、さまざまな課題が出てくることも否めません。

また、日本の従来のプロセス重視型の人事評価は、企業内のジェネラリストを育成する目的もありました。しかし、ジョブ型人事制度を導入すると、専門領域のキャリアを各自が構築していくため、企業内ジェネラリストが育ちにくいというデメリットも出てきます。その一方で、自発的なキャリア形成を促進するという効果が得られます。

(参考:日経XTECH「KDDIの「ジョブ型」で社員の働き方と働く場所はどう変わるのか?」)

 海外の人事評価制度

米国は、新型コロナウイルス(COVID)感染拡大前からジョブ型人事評価制度が導入されていました。リモートワークで仕事をするフリーランスも多いため、海外事例を参考にした人事評価制度を検討してみても良いでしょう。海外の人事評価制度の中でも、真似したいのが「ノーレイティング」です。

ノーレイティングとは、数値やランクによる採点を付けない評価方法で、アクセンチュア株式会社やアドビシステムズ株式会社で導入されています。

ノーレイティングは、全く評価しないということではなく、コミュニケーションで評価をすることが多いです。常日頃から、上司と部下の間で密接なコミュニケーションをとり、業務のフィードバックが都度行われます。このように、日頃のコミュニケーション内で評価することで、リアルタイムの目標の共有と迅速な対応が行えるようになります。

(参考:TUNAG「ノーレイティングとは?メリット・デメリット、導入企業事例を解説」)

IT活用「プロセス重視型」人事評価制度

GMOペパボでは、2020年1月27日から一斉在宅勤務となったため、評価期間の9割はテレワークという状況でしたが、問題なく人事評価が行えました。

GMOペパボでは、Slack・GitHub・Enterprise・ScrapboxなどのITツールを導入して、業務プロセスを可視化し、それ以外の部分を定期的な面談で補うことで、テレワークの環境下でもプロセス重視の人事評価に成功することができました。

ITツールにログを残すことで、勤務態度や勤務時間に関する悩みを払拭し、足りない部分を定期的な面談で補うことで、人事評価をスムースに進めていくことができたのです。

日本の人事評価は、プロセス重視型が採択されているため、テレワークに切り替わっても同様の評価制度であれば、従業員も抵抗を感じないというメリットもあります。

(参考:ペパボHRブログ「リモートワークでの人事評価はどうだった!? 評価者と被評価者とで上期評価を振り返ってみた」) 

 リモートワークで360度評価を導入する企業も続出

リモート化が加速する中で、360度評価を取り入れる企業が増えてきました。360度評価では、上司に加え、同僚や部下からも評価対象者の人事評価材料を集めて人事評価を行います。さまざまな人から評価してもらうことによって、納得感の高い人事評価が行えます。

新型コロナウイルス感染拡大の危惧で、リモート化が加速する前からあった人事評価方法ですが、リモート化で360度評価が見直されています。360度評価を採り入れることで、管理職の方の人事評価の負担を削減する効果や、コミュニケーションを円滑化する効果、適切な人事評価がされるのかという従業員の負担軽減の効果が得られます。近頃は、「チームスイート「Agelu」など社員同士で感謝型の評価をし合うユニークなSaaSサービスも出てきています。

(参考:リクルートマネジメントソリューションズ「360度評価の背景と効果的な導入の仕方とは?」)

まとめ

今回は、Withコロナ時代(リモート化)における人事評価の課題と実践法について解説しました。新型コロナウイルス(COVID-19)の感染を危惧して、リモート化した企業は多いです。withコロナの環境下に適合した人事評価制度を実施している企業事例は幾つか出てきていますが、大きく分けると、4つあります。

 

  • ジョブ型人事評価制度…具体的な成果と専門領域の成長過程に応じて評価を行う
  • ノーレーティング…日頃のコミュニケーション内でリアルタイムな評価を行う
  • IT活用型プロセス重視人事評価制度…ITツールでログを取得して勤務態度や勤務時間を加味した評価を行う
  • 360度評価…上司に加え、同僚や部下からも評価対象者の人事評価材料を集めて人事評価を行う

 

ぜひ、今回紹介した人事評価の方法を検討してみてはいかがでしょうか。